高専在職中を振り返って

元電気電子工学科 教授 平林 紘治

 1966年(昭和41)年から、かつての電気工学科、今の電気電子工学科に40年間在職し、本年3月退職しました。この間多くの方々に大変お世話になり感謝しております。途中何度か転職も考えましたが結果として沼津高専にお世話になった次第です。

 在職中を振り返ってみると、いろいろなことが思い出されます。

 高専は、1960年代に始まった日本の高度成長期の技術者を養成するために作られた学校であります。しかし、高専制度を立ち上げた大企業は別として社会的にはあまり認められず、企業からの求人も多くなく、当時の先輩の先生方は、卒業生の進路に大変なご苦労をされていました。
経済の高度成長に伴い、卒業生たちの努力と実績が評価され、求人数も増加し社会からも認められるようになりました。

平成初期のいわゆるバブル期には、電気科1学科で就職を希望する学生が30名位しかいないのに、およそ1000人にのぼる求人があり、逆の意味で進路指導に苦労するということもありました。
しかし、社会情勢の変化に大きな影響を受けたことも多々ありました。
昭和50年代のオイルショック時には、就職が内定していた卒業生が、4月に出社できず自宅待機ということがありました。

平成5年の「バブル崩壊」時には、急激に求人数が減少し、前年の1000社から200社近くまで落ち込みました。こんな状況下でも、それまでの卒業生の築き上げた実績と学生たちの実力で乗り切ってきたと思います。

 また工業技術の飛躍的な進歩発展により、社会のニーズが変化し、講義内容も大幅に変化しました。
電気の世界では、半導体技術開発によるエレクトロニクスの進歩がめざましく、トランジスタからIC、LSIと進化すると共にコンピュータ技術が加わり、技術の広がりは想像をこえるものがあります。
思い起こせば限りがありませんが、このような環境の中で長年過ごしてきた自分の人生にとって一番良かったと思えることは、自分の好きなことを、毎年20歳以下の若い元気な学生たちと一緒に勉強してきたことです。特に卒業研究では、学生たちと一緒に実験を行い、考え研究ができたことです。このことは他の職業ではできないことです。

自分は学生と教師という関係はあまり好きではありません。ただ仕事の性質上彼らの将来に少なからぬ影響を与えることは事実です。どれだけ彼らの将来にいい影響を与えられるか分から無いが、負の影響を与えてはならない、自分が加害者になってはならないということだけは常に心してきたことです。
在職中は電気科に所属していたため、電気に関わることを中心にやってきましたが、バイオエネルギー利用ということに大きな興味関心を持っています。地球上に降り注ぐ太陽光エネルギーは、1平方メートル当たり約1kWといわれています。1畳当たり約2kW    
この膨大なエネルギーは、現在は太陽電池、間接的には水力発電、風力発電に利用されているだけです。石油石炭は何万年も前の生物が蓄積した太陽エネルギーです。現在はエネルギー不足だけでなくCO2問題も大きな環境問題です。生物(植物)を利用して太陽エネルギーを固定しエネルギー源として用いれば2つの問題点はまとめて解決できます。 このためのささやかな実験を、今後自宅でやっていこうと思っています。内容は秘密です。

 高専では無味乾燥な工学だけとつきあってきましたので、退職後4月から少し楽器も習い始めました。まさに60の手習いです。

 今後社会情勢はますます難しくまた厳しくなっていくと思います。卒業生の皆さんのご健勝とますますのご活躍を心からお祈り申し上げます。

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